【反対討論全文】厚生年金への地方議会議員の加入を求める意見書の提出について

9月18日の本会議で、厚生年金への地方議会議員の加入を求める意見書の提出について議題に上がりましたので、反対の立場で討論しました。討論の全文を以下に公開します。また、賛成討論を行なった戸上健議員の討論内容の要約と、中継Youtubeのリンクも載せておきます。

「地方議会議員の厚生年金加入のための法整備を求める意見書」に対する反対討論

議席番号2番五十嵐ちひろです。

議長のお許しを得ましたので、ただいま議題となりました発議第3号厚生年金への地方議会議員の加入を求める意見書の提出について、私は反対の立場から討論いたします。

意見書の根幹にある議員のなり手不足解消は、鳥羽市議会に限らず、全国の地方議会が共通して直面している課題です。地域の未来を担う人材をどう確保していくかという、真摯な問題意識からの発議であると私は理解しています。この課題意識を、一部で言われるような「議員の保身」という言葉で片付けるべきではありません。

また、こうして地方議会が足並みを揃え、意見書という形で国を動かそうとする運動は、地方政治のあるべき姿を体現していると言えます。

議員という立場に伴う身分の不安定さが、立候補への大きな壁になっている。この認識そのものについて、私は同僚議員の皆さんと何ら違いはありません。厚生年金もなく、失業給付もない。住宅ローンひとつ組むのも難しい。家計の主な担い手である現役世代ほど、この立場に挑戦しにくい構造になっている。この壁は、実在するものです。

ここで一つ申し上げたいのは、「身分の保証がなくても立候補する覚悟がある人こそ議員にふさわしい」という立場からの反対はしないということです。覚悟の有無で、その人の議員としての資質は測れません。身分の不安定さをどこまで引き受けられるかは、その人が背負っている経済的な条件によって大きく左右されます。「やる気の証明」に見えているものが実際には「経済的な余裕の証明」である場合もあるのです。条件に恵まれた人だけが立候補できると言う現状を許容する事自体が、成り手不足の解消と相反するものであると考えます。

問題はここから先、この壁をどう取り除くかという、手段の選び方にあります。

これから議員になるかもしれない人たちが本当に必要としている安定は、そもそも「年金」という器で扱うべきものなのでしょうか。厚生年金が保障するのは、引退した後の将来の資産的な安定です。しかし、なり手不足の背景にある不安——ローンが組めない、家族の反対で立候補をためらう——これらの正体は、老後の年金額そのものというより、「議員をしている間に生活が崩れないか」「議員を辞めた後、元の仕事や生活に戻れるのか」という、不安ではないでしょうか。だとすれば、厚生年金という形で応えようとすること自体が、この壁の本質からズレている可能性があります。

立候補を検討しながら断念した人への大規模な調査でも、断念の理由として上位に挙げられているのは、「資金や知名度の不足」「仕事や家庭生活と政治活動・選挙運動との両立の難しさ」など、選挙制度と市民の生活がかけ離れていることに由来するものが多くあります。加えて、元の仕事との両立の難しさや、専門性・経験の不足への懸念も挙げられています。なり手不足対策の有効性を全国の議会に尋ねたアンケートでも、最も評価されたのは「議員報酬の引き上げ」で77%、「議員の厚生年金制度」は55%とそれを下回りました。将来いくら年金がもらえるかよりも、今の生活が、選挙や議員という立場によってどれだけ崩れてしまうのか——その落差の大きさこそが壁だと言えるでしょう。

公平性の観点からも、疑問が残ります。小規模事業者やフリーランスとして働く市民の皆さんもまた、私たち議員と同じように、国民年金に加入し働いていらっしゃいます。その中で、議員という立場だけを厚生年金に加入させることは、市民の理解を得ることが難しいと考えます。地方議員の厚生年金加入にあたっては、保険料の半分を各自治体が事業主負担として税金で賄う仕組みとなります。一定の交付税措置があったとしても、税金から出されることに変わりはありません。年金制度について取り組むべきは、小規模事業者やフリーランスを含めた、すべての国民年金加入者の老後の安心をどう底上げしていくかという議論ではないでしょうか。

更に議会と執行部の健全な関係を揺るがすものになるのではないかという懸念もあります。市政を監視する立場の議員が被用者、監視対象である自治体を事業主とみなす関係を成立させることには、議会の独立性という観点から違和感があります。

年金という将来の話ではなく、議員になることへの挑戦を考えるそのとき、議員という役職についている間、その不安の解消に取り組む。それこそが、なり手不足という課題を解消する、本当の処方箋だと私は考えます。すでに全国の議会や研究会でも議論されている、次のような施策の積み重ねです。

  • 夜間・休日議会の開催やオンライン出席の導入により、他の仕事を続けながらでも議会活動に参加しやすくすること
  • 役職だけでなく、活動量に応じて報酬や政務活動費が加算される仕組みを設け、兼業から専業まで、望む形で段階的に関わり方を選べるようにすること
  • 企業による立候補休暇制度や休職・復職制度を整え、挑戦している間も、挑戦を終えて元の仕事や生活に戻るときも、生活の土台が崩れない仕組みをつくること
  • 議員インターンシップ制度を導入し、実際の活動を知った上で立候補を判断できる機会を用意すること

厚生年金という待遇を用意するよりも、こうした入り口の広さを実現することの方が「国民の幅広い層からの政治参加や地方議会における多様な人材確保」という目的に対して、より直接的で効果的な策であると、私は考えます。そして鳥羽市議会は、議会サポーター制度の導入により、その入り口にすでに立っています。

議員のなり手不足という課題に、危機感を持って向き合おうとする同僚議員の皆さんの思いを、私は共有しています。だからこそ、その解決の手段として、効果の不確かな厚生年金という制度に頼るのではなく、議員という役割そのものを、兼業でも専業でも、多様な人が担える柔軟な形に変えていくこと。そして国民年金制度そのものの底上げを国に求めていくこと。これこそが、私たちが本来目指すべき方向だと考えます。

以上の理由により、私は本意見書の提出に反対いたします。

議員各位のご賛同をお願い申し上げまして、討論といたします。

戸上健議員の賛成討論の要約

まず、意見書の意義について。地方自治法に基づき、鳥羽市議会がこれまで提出してきた意見書は全て全会一致で採択されてきた。今回もその伝統に基づいてこの場に臨んでいる。

これまで鳥羽市議会は、異論があれば委員会の場で発言し、同僚議員の意見にも真摯に耳を傾けながら、どうすれば全会一致に至れるかという姿勢を貫いてきた。私自身も、これまで多くの議案に反対討論を行ってきた立場だ。今回の意見書に関しては、全員協議会や議会改革特別委員会、さらに設置された小委員会でも2年以上にわたって協議を重ねてきた。

次に、意見書の内容そのものについて。議員も市長などと同じ特別職でありながら、退職金や被用者保険といった待遇が異なる。会社員などから議員に転身した場合、厚生年金の受給要件を失い、老後の年金が減ってしまう問題がある。議員になっても厚生年金を継続できるようにする法整備を求めることは、特別公務員として最低限の要望ではないか。

続いて、鳥羽市議会議員の現在の処遇について。報酬は月額33万5千円で、この25年間1度も引き上げられておらず、むしろ2002年、2003年、2012年と複数回削減されてきた。税や保険料を引いた実質の手取りは月25万円程度になる。この待遇の低さが能力のある人材の立候補を妨げている。

さらに、旧地方議会議員年金制度が2011年に廃止された経緯について。廃止は議員特権への批判からではなく、財政悪化が原因だった。廃止時の国会審議では、新たな年金制度の検討を求める附帯決議もなされている。

全国の議長会も本年4月、地方議会が多様な人材の参画を進めるための環境整備として、厚生年金加入の実現を国へ強く要請している。執行部が人材確保を進める中、議会もそれに遜色のない陣容にする必要があり、この意見書提出に至った。反対する鳥羽市民はおそらく一人もいないだろう。

最後に、反対討論を行った議員に対して。老婆心ながら一言申し上げる。反対討論からは自分自身も学ばせてもらった。挙げられていた数字も、議会が越えていくべきハードルの最初のものに過ぎず、全ての課題が解決しなければ意見書に意味がないということではない。これまでの全会一致という伝統に沿って、意見書提出に協力してほしい。

本会議動画

五十嵐28:22
戸上議員36:51